結局そのまま食べるのが一番美味しいという話
突然だが、私の田舎では、梨を作っている。
秋の季語としても有名な梨であるが、近年は一年中お目にかかれる。ハウス栽培とはかくも画期的な発明であったと思う。だが、実際にやってみればわかるが、燃料代や維持費はバカにできないものである。
農業とは意外に金がかかり、普通に100円200円の単価だとしても、帳簿につける金額はその100倍、ヘタすればその1000倍になるからとんでもない。金のなる木でもあれば金が沈む沼でもある、とは祖父の言であるが、怖くて詳しくは聞けなかった。とりあえず、ずぼらな人間は農業に手を出してはいけないということを、当時小学生の時分で私は学んだ。
そんなわけで、この季節になるとに梨が届く。一人では食べきれないから、と毎年のように遠慮するのだが、基本的に聞く耳は持ってない。ダンボールいっぱいの梨を、クロネコヤマトのお兄さんが重そうに持ってくるのだ。コレ普通に買ったらいくらするんだろう、とは考えないようにしている。精神衛生上よろしくない。
あまり梨を食べることがない人にはピンと来ないかもしれないが、梨というのは量を食べられない。その果肉が含む水分量というものもあるが、単純に甘いのだ。均一的な一辺倒の甘さに晒され続けて平気な人間はそう多くない。
一度に食べられない以上、日にちを開けながら食べることになる。幸いにも梨は結構日持ちをする果物ではあるのだが、流石に2週間も3週間も放っておくのはよろしくない。できれば10日ぐらいで食べきってしまいたい。
かくして私は、梨を食べる方法を、毎年のように模索しているのだ。
そのまま、シャーベット、アップルパイならぬ梨パイ。いろいろ試行錯誤してわかったのは、梨は加熱、加温すると甘さが際立ってしまってさらに食べづらくなるという点。りんごと同じような使い方をすると何故か失敗する。やはり純粋な甘さの程度の違いなのだろうか。
ドレッシングやジャムにもしてみたことがあるのだが、あまり量を使わずにできてしまうので、手間だけが増したような形になる。万事休す、打つ手なくうなだれた私にかけられた一言が、
「え、クックパッド見ればいいじゃん」
なんという天啓、なんという的確なアドバイス、おお同期の君よ、私は今君が輝いて見える。
クックパッドを見れば、出るわ出るわレシピの数々。やはりデザートやドレッシングにするようなレシピが多いが、中には豚キムチに混ぜる、なんていう私には逆立ちして腕立て伏せをしても出てこないようなレシピまである。…一体先達は何を考えて豚キムチの中に梨を放り込んだのであろうか。ソレがどういう状況だったのか興味はあるが、今はレシピに光が見えた、それだけで収穫である。
喜び勇んで豚肉とキムチをスーパーで購入、レシピ通りに晩ごはんを作ったところ、
「……辛い……」
キムチが苦手だという事実を思い出した哀れな男がそこにいた。
…梨を入れれば、食べられるかと思ったのだ。全然ダメだった。匂いもなんか甘さが加わって、得も言えぬ香りのハーモニーを奏でている。
というわけで、私の家に、ブタ梨キムチ食べに来てくれる人を、募集します。