月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

すべらない話の話

芸と呼べるものに昇華するためには、それ相応の労力がかかると思うのです。


今やクールの定番特番となった人志松本のすべらない話という番組がございますが、あの番組が視聴率を取るようになる前は、すべらない話は鉄板話と呼ばれ、それがエピソードトークと呼ばれるようになり、一般知名度として定着したのがすべらない話なわけです。

実のところ、すべらない話というのは笑える話なわけで、それをわざわざ「すべらない」と言い直しているところがまた話術の妙の一つでもあるわけです。一つ一つの話は少なくともその当人の日常から大きくかけ離れたものではないはずですが、それを人に聞かせるためにシーンをぶつ切りにし、吟味し、組み替えて削って時には盛って。すべらない話に昇華する技は、一朝一夕では身につかないものだと思います。

自分でやろうとするとその凄さがわかる典型のようなものでして、道具も何も必要ない。ただ「話すだけ」。日常でほとんどの人が経験しているその行為で人を笑わせる。まぁお笑いというものは大体それの延長にあるわけですが、漫才のように相方はいらない、コントのように小道具もいらない。シンプルであるがゆえに逆にその難しさが際立つわけです。

で、まぁなんでこんな話をつらつらとするかと申しますとですね。すべらない話一つぐらいもっとくといいよというススメなわけです。

だけどそんなホイホイ面白い話なんかないよ。と言われるのですが、面白い話はそうそう降ってわいてきません。話自体が面白いのは、ガチャで言うならSSRです。僕らは出てきたSRやRをSSRに対抗するぐらいに育て上げなければならないのです。育て方次第で、全くSSRに引けを取らない強さにすることができるんですねこれが。

ポイントは3つ。テンポと整形とコスリです。

まずテンポについては、その事柄を分析することから始まります。

題材にしたストーリーのうち、オチはいったいどこにあるのか。そのオチの前提条件、関連する情報は何なのか。オチは何段あるのか。これを整理します。
その上で、できるならば、起承転結を意識します。ポイントは、起の部分。聞いている人に共感されるような入りだとグッドです。
そして忘れがちなのがオチの後。結の部分に当たりますが、オチで盛り上がって笑いを取った後はさっと話をまとめることを意識します。人はツッコみたい生き物です。オチに自分なりのツッコみを入れたい、感想を言いたい生き物なのです。そこで長々と話をつつけると、熱が冷めてしまうんですね。

そして整理ができて、話の流れが決まったら、次は整形。いらないところをそぎ落として、強調したい部分を盛りつけます。誤解ないように言っておきますが、盛るっていう部分は噓を言えって言っているわけではないんです。小芝居のように演じたりだとかですね。誰も不都合がないような場合は部分的に嘘や大げさに言っても大丈夫だとは思いますが、嘘で塗りたくると、大体の場合は話が薄っぺらくなります。面白くなくなってしまうんですね。本末転倒です。

自分の心情を話すときに話し口調にしてみたり、他人のセリフをその人の口調にしてみたりと、淡々と出来事を話すことだけよりも強弱がついてお勧めです。

ただ、盛ることだけを意識してしまうと、削る部分がおろそかになってしまいます。

話をまとめる際にどちらが重要かと言われれば、実は削る方だったりします。必要な部分を残して削るというのは、実はとても難易度が高いのです。

ポイントとしては、テンポを作るために、話の要素を整理しましたが、その情報を元に、要るセンテンス、要らないセンテンスを取捨選択していきます。

そして最後のコスリ。要するに何度も同じ話をして、話慣れておくということ。練習ですね。

ここで理想的なのは、まず誰に聞かせるわけでもなく、自分自身で練習するという点。はたから見れば、誰かに話しているように喋るように見えるので、正直ただの危ない人なのですが、必要な工程です。人に聞かせる前に一回通しで話してみましょう。

絶対違和感あるので。

その違和感の正体はいったい何なのか。過剰表現なのか、話を削り切れなかったのか、それとも削りすぎて意味が分からなくなったのか。そもそも話すのに飽きていないか。原因はごまんと考えられます。

そしてそれを少しずつ修正していき、これ以上は一人で修正するのは無理だなというレベルに達した時、初めて人に話を聞いてもらうのです。

これまた一人で話すときと人に話す時では感触が違います。野球のピッチャーが投げ込みをする際に、バッターがいるのといないのではまるで感触が違うのと同じぐらい、劇的に感触が違います。

相槌を打ってくれる、話の切れ目に少し言葉を入れてもらえる、それだけで話の完成度が上がってきます。

何度も話していくうちに、だんだんとしっくりくる話にまとまってくる、これですべらない話の完成です。

とまぁつらつら書きましたけど、これはあくまで自分の備忘録的な話の作り方です。
ここら辺はセンスや場数がものを言うので、いきなり初めて話したことがすごいウケることもあるでしょうし、こんなに神経質にならなくても、なんとなくで話せる人も数多くいると思います。

ただ、計算された面白さ。芸としてのすべらない話を作り上げるには、それ相応の労力がかかると思うのです。

話の展開を理解した上で、もう一度最初からその話を聞いてみると、話力の高さが理解できると思います。
すべらない話のレギュラーで言えば、松本さんや麒麟の川島さんが話の構成力で群を抜いていますね。逆に感性が鋭いのは、宮川さんやかまいたちの山内さんなんかだと思います。尊敬するわぁ…。

というわけで、すべらない話の話でした。かしこ。