月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

「辛いものが好きな人はMだ」って先輩が言ってた

辛ラーメン」である。


長い間、私はこれを「からーめん」と読んでいた。読んでいただけでは飽き足らず、普通にそう人前で発言していた。恥ずかしいことこの上ない。終いには「かららーめん」と素直に読んだ上に、「ら」が重なるとかっこ悪いと感じて勝手に「ら」を一つ省略している。だってそうだろう。辛いんだろうこのラーメン。赤いし。我ながら驚くほど単純な理由で辛さを認識していた。

からいラーメンなんだから、「かららーめん」。「ら」が二つ続いちゃってるから「からーめん」と読んでいたのだ。明らかに名付けのスキルがない。ポケモンにニックネームを付けることが出来ない人種である。

初めて見たのは、おそらく海外旅行に行った知人のお土産だったと記憶している。中国かどっかに旅行に行って、ラーメンは好きだけど辛いものが苦手な私のお土産に辛ラーメンを買ってきてくれた。文字通り半分行為で半分嫌がらせである。いい友達を持ったものだ。

おみやげで貰ったものを捨てるわけにも行かず、さりとて明らかに辛いであろうものを好んで食べるわけでもなく、家の戸棚に仕舞っていたら、いつの間にか妹が食べていた。この時ばかりは妹に感謝した。遠い過去の話である。

それから何年か。日常生活で「基本的に自分の人生には関係のないモノ」として認識しており、無意識に視界に収めることをしていなかったのだろう。というのも、つい先日コンビニで新作のカップラーメンを何気なく眺めていたら、ひっそりと棚の端に陳列されていたのを見つけた。

これが私にはなかなかな衝撃であり、新商品でもない、それこそそれなりの歴史があるカップラーメンがコンビニの棚に並んでいる、というのは、極めて珍しいことだと思う。それこそ、新商品が週ごとに発表されるようなコンビニの売り場で、一体どれだけの商品が恒常的に売れるかを考えた時に、その偉業が分かる。世の中はそんなにも辛いものに飢えているのか。

辛いものが苦手な立場からすると正直良くわからないのだが、市場というものは正直である。名前がいつまでたっても覚えられない顔の薄いラーメン評論家や、食べログのレビューなんかより、よほど信用できる。それも繁盛している=世の中の機微に敏感なコンビニが置いているというのは、それなりの根拠、つまりは万人に受け入れられる美味しさがあるのだろう。これは認識を改めねばなるまい。

深夜のコンビニでお得意の理路整然チックなツッコミどころ満載の理論を披露し、私は辛ラーメンを買って帰ったのだ。


次の日。

「で、どうやったん?」
「……辛かった」
「辛味の中に美味しさがあった?」
「ねぇよ。辛いだけだよ」


というわけで、私の中で、辛ラーメンがコンビニに置いてある理由は「オーナーの趣味」ということになりましたので、以後徹底をお願い致します。