月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

自らの経験に学ぶことは決して常識を学ぶことではないという話

「オロナイン? なにそれ?」

たまげた。

いや、つい方言が出てしまったが、オロナインを知らない人間が居ることが信じられなかった。それも自分より上の世代でだ。若い人なら知らないこともあるだろうが。

オロナイン、正式名称をオロナインH軟膏という、まあ要するにニキビやひび割れに効く皮膚薬だ。昔からある薬である。

私の中でこのオロナインはほぼ万能薬の様相を呈しており、家庭内三大秘薬の内の一つとして数えられている。ちなみに他の2つは正露丸ロキソニンだ。次点でルルと冷えピタ。冷えピタは薬ではない。

自他ともに認める注意力散漫男なので、何かにつけては火傷をする。料理なんかしてると勢い良くフライパンとかを直に触っちゃったりするのだ。無意識なので大したことにはならないが、「これくらい軽い軽い」と言いながら放置すると、後で鈍痛を伴う水ぶくれに進化するのだ。最悪すぎる。

ここ最近で一番ひどかったのは、ぼーっとしていてカップ麺の蓋を開けずにお湯を勢い良く注いでやけどした。割と広範囲に。

そもそも蓋を開けずにって意味がわからない。蓋のめくり方が甘くて、意図せず蓋が水流で閉じてしまい、結果として蓋に熱湯が弾かれてやけどをするという事例なら分かる。というかそれは何度かやった。けど、最初から一切の蓋を開ける動作すらせず、何ならかやくや粉末スープやらを置き去りにした状態で、美味しそうなイメージが描かれた商品パッケージに勢い良く熱湯を注ぐのは、正直自分でも引いた。熱ッ! ってなったあとに一瞬意味がわからなかった。「は?」ってキレ気味にカップ麺を睥睨した後に自らの過ちに気づくのだ。カップ麺側から見ても濡れ衣甚だしい。

そこでオロナインである。流水で冷やしたあと、軽く塗っておけば、水ぶくれにはなるものの、痛みはほぼない。完治も早く、まさに魔法の薬である。

ここで疑問なのが、オロナインを知らない人間は一体どうやってやけどを治すのか。ポケモンでもあるまいし、やけどなおしなんぞという便利な道具があるわけでもあるまい。

「え? 普通に冷やすけど?」

笑止千万、片腹痛いわ! 冷やすだけでやけどの恐怖と痛みと理不尽さから逃れられるとでも言うのか!

「いやだって、そんなやけどしないでしょ」

ピタリと止まった。

「そんなやけどする? 私もう何年もやけどとかしてないけど」

やけどをした過去を思い出せないという。

まさか、と思って他の人に聞いてまわれば、皆口をそろえてそんなにやけどをしないという。唯一日常的にやけどをしているという人物がいたが、車の整備士で殆ど職業病みたいなものだからノーカウントとする。

そしてまた、私の中の常識が一つ崩れ去る。

普通の人は、そうそうやけどとかしない。


…しかし、オロナインは素晴らしい薬だと思うのだ。ニキビとかにも使えるし。私が使うのはやけどオンリーですが。

あまり言うと、回し者だと誤解されるので、この辺にしておく。