月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

センチメンタルになりきれない話

夕闇の中、近所を歩いていたら、線香の匂いがしました。

夏が折り返してきてるなぁと感じました。


今でも覚えている、私の小学校時代の夏休み日記の一節である。

小学生時代から随分ひねくれていたのは明白で、一体どんな小学生が線香の匂いで夏を感じるというのかと自分のことながら苦笑する。多分その当時読んだ小説か何かの一節をそのまま引用しただけのマセガキの表現だったのだろう。軽い黒歴史である。

ところで、私には夜中陽が落ちたあとに近所を散歩するという非常にじじむさい趣味がある。趣味なので日課ではなく、別にやる日もあればやらない日もある、歩いてる時もあれば、ちょっと体が鈍ってると思うときは軽いランニングにするときもある。スキップしたことはないが、突如としてカニ歩きやムーンウォークの練習に当てたことはある。言い訳のしようもなく不審者である。スキップのほうがなんぼかマシだ。

今日も住宅街をのんべんだらりとぺったらぺったら。クロックスのパチもんのサンダルをひっかけて、夜中だから暗いからという理由でコンタクトもせずにブラブラと歩いていたら、ふと線香の匂いが鼻についたのだ。

そういう時には必ず、小学生の頃に書いた日記を思い出すのだ。

いい大人になってそれなりの時間が経ったから、あの頃の自分がちょっと詩的な表現を使いたかっただけのマセガキだということも、線香をたくという行為が示すところも、それが夏の風物詩になっているということも、理解できるようになった。

なんとなくセンチメンタルな気持ちになりながら、散歩を終えて家に帰ると、家の中でも線香の匂いがした。

なんだよ随分と気が利いた演出じゃないか。別に仏壇も何もありゃしないのに、そういう風流が理解できるようになったのかと奥のドアを開けば、そこに鎮座しておられたのは、なんというか、私が想像していた線香をちょうどぐるぐる巻きの形状にしたアレだった。

「蚊がいたからねー。裏のコンビニで買ってきたー」

今時のコンビニは本当に品揃えが豊富だなぁと思う反面、静かに煙を上げる蚊取り線香を見ながら、ちょっとこれはセンチメンタルにはなれんなぁとフクザツな気分になるのだった。

好きですけどね、蚊取り線香。電子式のやつやワンプッシュのやつより。