月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

他を知る前にまずは自らを知るべきであるという話

About two minutes from the north exit of Shinbaba Station.

私とて文系の端くれである。これくらいの英語は油断していても出る。

だが、私は致命的なミスをしていた。

「…それは『しんばんば』だね」

割と衝撃だった。衝撃的な上に赤っ恥だった。

取引先と歓談中に石化したように時間が止まった。三十路にして地名を自信満々に間違えた。だがしかし、そこは培ってきた経験で「…これしんばんばって読むんですか!?」と続けた。不自然では、なかったと思う。

…いや読めないだろう。「新馬場」は「しんばば」だろう…。

思えば、東京という所は、電車での移動を大前提としている割りに、読めない駅名が多すぎると思うのだ。いやこれは断じて八つ当たりではない。私の赤っ恥を正当化しようとしているわけでもない。私のような人間を増やさないために必要な注意喚起である。

~読み方間違えた遍歴~
新馬場」 ×しんばば ○しんばんば
「亀戸」 ×かめと ○かめいど
御徒町」 ×おとまち ○おかちまち
馬喰横山」 ×ばくよこやま ○ばくろうよこやま
「内幸町」 ×ないこうちょう ○うちさいわいちょう
「高輪」 ×こうりん ○たかなわ
茗荷谷」 ×な…か…? ○みょうがたに

…ぱっと思いつくだけでも多いと思う。

そしてそんなややこしいところにばかりホテルを取ってしまい、取引先を訪問しているのは神の嫌がらせか何かじゃないのだろうかとも思う。

それとも私が知らないだけで、関東一円の駅名というのは、基本的に読みにくいものなのだろうか。電車社会だというのにそれはいろいろな人が困るんじゃないか。私のように基本的にちゃらんぽらんで何を喋っても次の日にはだいたい忘れていると評されるような適当男に対してなら先のような指摘もできるであろが、基本的に大の大人に間違いを指摘するのは難しいものだ。

それはトロイの木馬のごとく内側から誇らしげに開放されたんじゃないかと見まごうほどの社会の窓だったり、襟から見えるクリーニングのタグだったり、分離してしまったまつげだったりと、そういうたぐいのものである。

これだけ「礼」と「節」を重んじる社会のマナーを説いておきながら、地名という「知っていなければならないもの」を下手に難解にするのはいかがなものかと思わないでもない。決して私の間違いを正当化しているわけではないのだが。

ほんと、全部二文字でシンプルな漢字だけ使うようにすればいい。「品川」とか「田町」とかを見習うべきだ。そうだ、2020年のグローバルな行事に向けて、ほら、わかりやすくした方がいいじゃないか!

という主張をしたら、「それ、同一漢字が増えてさらに読み方がややこしくなるやつだよ。簡単な漢字ったってそうはないんだから。余計混乱するよ」という、真っ向からボケを殺された上に、念入りに返す刃で真っ二つに切り捨てられました。情け容赦もない、ぐうの音も出ないとはまさにこのことなり候。

ですからみなさん、おいおい覚えていきましょう。大丈夫です、県外から来たことを強調すれば多分多めに笑ってみてくれるだろう。

…ただ、間違った読みのまま道案内すると、親切心からとは言え、とんでもない迷子を生み出してしまうということは、肝に銘じておいたほうがいいと思うですの。

ちゃんとホテルに行けたかなぁ、あの外人さん…。