月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

深夜の映画館で「HELLO WORLD」と呟いた君に、「これだからSFは止められねぇぜ」と返した僕

hello-world-movie.com

 

また映画の話で恐縮なんですが、今回は「HELLO WORLD」の話です。

ネタバレギルティと意気込むあなたは回れ右。

 

 

・Science Fictionをさいえんすふぃくしょんに

 

まずはじめに、割とハードル高い気がするんですよ。設定の。

映画を見るきっかけって色々あると思うのですが、監督だったり俳優だったり声優だったり、人に起因するものもあれば、あらすじを読んで面白そう、と感じる、設定や物語に魅力を感じることもあるでしょう。

それらを複合的に見せるのが、「予告編」だと個人的には思っておりまして、僕個人としては、この予告編を見て、「お、今度これ観よう」なんて思うのですよ。

そういう意味で、この「HELLO WORLD」は、ファンタジーの皮を被ったゴリゴリのSF設定が横たわっているという、誤解を恐れずに言えば、予告編詐欺とも取れる作品だったと個人的には感じました。(無論褒めてる)

この作品の上手いところは、随所にSF好きなら目を輝かせるような伏線を張っておきながら、SF初心者でも「面白かった」と言わせてしまう、ストーリーの構成だと思うのです。

2つ(物語の系列的には3つ)の世界の誰にも救いがある。みんながハッピーエンドで締めくくられる。この大前提があればこそだとは思います。

なんで、冒頭に言った、ハードルが高い、と言うのは、100%ストーリーを楽しむためには、多少なりともSFの知識が必要である。という話なわけです。

そして副次的に、なんかよくわかんないけどSFって面白いじゃん、ってなってSF人口を増やしていく。これはすごい計画ですよ。言葉の小難しさだけで、敬遠されてしまうジャンルの「SF」を、こういったテーマに落とし込んで触れさせる。この図を描いたのは相当な策士です。何回も言いますけど褒めてます。


・心理描写の不足が惜しい

まぁ、そうは言っても98分の物語なわけですよ。

SFを予習してバッチリ、さぁ来いやと意気込んで鑑賞してみると、今度は文学的な面からのアプローチをしてみたくなりますよね。だめですね。何でもかんでもボーイミーツガールな思春期に結びつけるのはだめなおっさんな証拠です。

心理描写に若干の引っ掛かりを覚えたのは以下の場面。

 

・直実が三鈴がタイプと名言したにも関わらず、ナオミに言われてすぐ瑠璃に恋心を持った点

引っかかりを覚えたと言いつつ、分からなくない自分がいます。だって学生時代ですよね。奥手で女子と付き合ったこともないんですよね。そんな男子学生が、未来の自分に「あの子と付き合える」って言われたら、そりゃそっちに夢中になりますよね。少なくとも、綺麗だとは思っているわけですし。

ただ、ナオミに言われてハイソウデスカヤッターと安直に行動できるタイプではないとも思うわけですよ。ここでオタク特有の深読みを発動させてみると、あくまで最初の接点はナオミの「笑顔が見たい、思い出がほしい」という、実に謙虚な望みを叶えるための「お人好し」の部分が大きかったんだと思うのです。そこから接していく上で好きになっていくという流れがあるんじゃないかと。

しかしその裏付けをしようとすると、生来の事なかれ主義が、あんな特訓を頑張れるかなぁとも思ったり。中二心をくすぐられたという説明ならなんとか通るか。

いずれにしても、もうちょっと心情描写と言うか、背景というか。あっても良かったんじゃないかなぁと。

 

・結局カラスは何なのか

これも…明確なアンサーがないんですよね。

映画一回見ただけ、パンフレットすらも読んでない(レイトショーで見て終わったら売店が閉まってるジレンマ)状態で感想をごちゃごちゃこね繰り回すのもいかがなものかと思うのですが。一回ざっと見ただけの観客の一感想と捉えていたければ。

カラスは、瑠璃のアバターなんじゃないかと思ったり。

ラストのシーンで「あなたが自分のために行動しなければならなかった」という瑠璃の言葉を鑑みるに、ナオミがツールとして扱っている状況では、言葉を発さず、ナオミと直実が決別した段階で直実に対して働きかけ、ナオミの自立を促す、役割的にはハマってるんじゃないかと思うんですがどうでしょうか。

カラスの力の説明もできそうですし。

 

その他にも、
・京都駅の大階段を最後の舞台に選んだ理由はあるのか
・最後の月面の意味とは
・最初の世界が「新しい世界」となったのは、結局どの世界上の話なのか
などなどいろんな疑問点は残るんですが、原作小説や補完資料を読んでみないことにはよくわかんないですねぇ。

 

そのうち出ると思うのですが、野崎まど的には投げっぱなしジャーマンで終わる可能性もあるかとちょっと戦々恐々としています。


いろいろ考察だったり足りない点だったりつらつら書いてしまいましたが、それらを込みにしても面白い映画だと思います。

 

瑠璃がナオミと拒否する場面からのチェイス、京都駅での攻防なんかは、感情の揺さぶり具合が実にうまく、動と静を感じることができました。感情の処理がおっつかないとはまさにこのことで、一気にクライマックスまで引っ張っていくあの流れは、エンタメの醍醐味の一つではないでしょうか。

 

時間が限られている中、説明が多量に必要な題材を選んだ物語で、ストレスなく魅させるというのは本当に難しいものだと思います。

 

そこをクリアしている時点で(少なくとも僕の中では)、一廉の完成された映画であると言えると思います。

 

おすすめです。

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず瑠璃ちゃんは頼み込んだら断らなそうなので、色んな意味で好きです。