天気の子が描くものは、僕らが15年前に置き忘れてきたなにかだ。
というわけで、大ヒット御礼中、新海誠監督の「天気の子」を(ようやく)見てまいりました。
いつもであれば、私、「極力ネタバレをせずにこの作品の素晴らしさを伝えるにはどうすればよいか」と頭を悩ませる所存なのですが、今回はネタバレ全開で行きます。まぁこのブログ読んでる人なんてこの広大な世界に片手で数えるほどしかいないと思われますので、大した影響はないと思いますが、万が一まだ見てないという人がいるならば、即刻検索窓に最寄りの映画館を打ち込み、上映スケジュールを確認してください。
その後は、心静かに、昔の、唐突な全能感や、徹夜で夢中になった冒険譚や青春物語の思い出を振り返りながら、映画館に赴くのです。
※若干の精神年齢の後退が見られるため、文章が非常に回りくどく、暑苦しい感じになってます。ご了承ください。
そもそも、前評判がすごかった。
曰く、セカイ系殺し新海誠。
曰く、葉鍵の再来。
曰く、10年前に封印したはずのオタクの俺が「最高ォ…」とゾンビのような感想を漏らしている。
等など、字面にすれば阿鼻叫喚、だけど、それらをつぶやく人の顔は皆一様に晴れやかな笑顔であるという、わかりやすく言えば、「コミケ帰りでボロボロになっているけど、手の中にはしっかりと戦利品を抱えている人々の顔が明るい」といった光景でしょうか。絶妙にわかりにくい。
ですが、やはり葉鍵のキーワードを聞いて黙って居られなかったのが、わかりやすい証拠でしょうかね。
一見の価値あり、「オタクには九頭龍閃ぐらい刺さる」と言わしめた今作、いっちょ見に行ってやろうと劇場に足を踏み込んだ結果。
きっちりセカイ系終わらしに来た上に、普通にギャルゲ要素てんこ盛りにしてきて情報量が多すぎて若干のプチパニックを起こす結果となりました。
- あったはずの夏美ルート
あったはずっていうか、あるでしょ(断言
おかしいでしょなんであの立ち位置でサブキャラやってんの完全にヒロインの一人でしょ。っていうか、世界の謎や壮大な設定に入り込む前にやっとかないといけないルートでしょ。
いいやわかります。わかりますとも。これは映画。2時間でセカイを説明して人々と関わって壮大な謎に触れて絶望して希望を見出してハッピーエンドに持っていかないといけない。それはわかります。そのせいで、本来語られるべきだった物語を早回しで自分語りで流さないといけないという事情は理解します。
ですがやりたい。
夏美ルートをやりたい。
主人公が高校生、夏美さんが就活を控えた大学生。理想的な組み合わせの一つではないですか。お酒を飲めて大人なお姉さんと、まだまだ未熟さが残る男の子ですよ。
お姉さんぶるんですけど、就活がうまく行かず。帆高に当たり散らすのですよ。大人ぶってるけど結局自分はまだまだ子供で。若さとがむしゃらさで真っ直ぐ生きる帆高に惹かれていって…って話が展開するんですよ。
先達たちが書き残している色々なブログを読んでみても、この線は揺らがず。一部では帆高が勘違いした愛人関係と言われた圭介との仲だって、映画本編中では一笑に付されていましたが、考えてみればなるほど、たしかにその線も十分考えられることではあります。
「ああ見えて一途なんだよ」というセリフは、それを補強する伏線にすら感じます。
一番大人なキャラクターかもしれないとパンフレットには書いてありましたが、それはあくまで映画本編(陽菜ルート)での話です。
夏美ルートでは年相応に弱いところを見せ、結ばれてからはいい感じに気だるい排他的な日常を少しだけ送り、帆高の真っ直ぐな部分に触発されて、就職浪人から一端の社会人へと成長するところでエンドとなります。
事務所のソファーで着崩れたシャツで気だるそうに眠る夏美のイベントCGは、原画に特に気合が入っていると評判です。
分岐ルートとしては、夏美のセリフ「こんな事務所腰掛けよ」と言ったあとの選択肢で、夏美の好感度が一定以上あると出現する「…就職活動、頑張ってください」を選ぶと、夏美ルートに入ります。
主人公までフルボイスで、拗ねたようにこのセリフを言うところ、いい演技してましたよね。
ちなみに、それまでに一定回数以上夏美との取材をこなさないと、好感度が足りずに選択肢が出現しないので注意してください。
- 凪ルートをクリアしないと、陽菜ルートへの分岐が出現しない
ええ、よくあるルート制限ですね。
便宜上凪ルートと称してはいますが、これは凪を攻略する云々のルートではありません。このルート自体が一つの伏線、凪と圭介、そして萌花を救う、一番平和で、一番謎が残るルートなわけです。
映画本編で見せていた情報のいくつか、例えばお寺での人柱の話なんかは、ここでさも重要そうな話ではない風に語られます。
このゲームの上手いところは、このルートを攻略させることで、陽菜を選ばなかった(救わなかった)セカイをプレイヤーに体験させる点であり、なおかつ、陽菜ルートでクライマックスに圭介が泣いた理由、凪と2人の女の子の背景を描き、あの場面で凪が乱入した背景を上手く補完している点ですね。
まぁ、メインヒロインが報われないという賛否両論のところでもあるんですが…。
こればっかりは映画だけでは補完しきれないところです。是非ゲームをやってみてください。
ちなみに言うと、カナとアヤネの声優さんが表名義になっていますね。喜ばしいことです。
- アメルートとムー女性編集ルート
先に触れた2つのルートは、映画本編で少しなりとも触れられ、キャラクターもしっかりと描かれているのですが、この残り2つルートについては映画本編で完全に「なかったこと」にされています。
アメは猫の姿から変化せず。女性編集ルートについては、「ムーの記事を書いている」という言葉のみで、姿すら出てきません。
先に書いたように尺の関係で難しいことはわかるのですが、泣きシナリオとして名高いアメルートの丸々カットは…いや、陽菜ルートとの関わり合いは少ないといえば少ないのですが。
女性編集に至っては名前すら…あれ? 名前なんでしたっけ? シナリオ自体は誰も不幸にならない、コミカルなシナリオで「このゲームはこのシナリオが一番精神に優しい」と言わしめたのですが、すみません、ちょっとキャラの名前忘れてしまいました。
私としたことが…。
- 陽菜ルートは救いがなくてはならない
さすがの手腕ですよね。
1990年代後半から盛んに言われ始めたセカイ系、エヴァンゲリオンを走りとして、「ほしのこえ」「最終兵器彼女」「イリヤの空、UFOの夏」と、ボーイミーツガールの関係性が世界の危機に直結する物語展開。
よくよく考えれば、形は違えど、ほしのこえで投げかけた答えが今作なのだとしたら、実に20年越しの伏線回収なのではないでしょうか。気長すぎるでしょ…。
いやまぁ、個人的には、セカイ系の定義はよくわからないんですけど。
セカイ系というよりは、古き良きボーイ・ミーツ・ガールであると言い切ってしまったほうが潔くてわかりやすくて好きなんですが。
陽菜ルートは先に挙げた2ルートの伏線が光り、ラストはキャラクターそれぞれがそれぞれの方法で陽菜のもとに向かう帆高を援護して行きます。
ここの疾走感と連帯感はやはり映像になっても光りますね。帆高が須賀に拳銃を向けるシーン、バックで流れるボーカル曲は思わず手に力が入ってしまいます。
ゲームではI'veサウンドがガンガンに泣かせに来てましたけど、映画本編ではRADWINPSがこれでもかってぐらいにパワープレイしてきましたよね。あれはあれですごい。
しかし、「子どもたちだけでの社会に対する逃避」。今回は警察という明確な「社会」が敵として描かれていましたが、この逃避というテーマは外せませんよね。
ここが安直に「戦い」とならない部分に、00年代っぽさがにじみ出ているような気がしてならないんですよ。そうなんですよ、主人公は決して強くないんですよ。無力なんですよ、戦えないんですよ、とりあえず逃げ出すもんなんですよ。最近の主人公は強すぎる。
逃げて、逃げて、逃げた上で、「逃げちゃだめだ」「なんとかしないと」。このプロセスが重要なんですよ。端折り気味だとはいえ、よくそのプロセスをなぞってくれました。ここ大事。テストに出ます。
だって、帆高は島をほとんどなんとなくで逃げ出してますからね。まぁ、行動力はそれなりにあるのでしょうが。
惜しむらくは、古のオタクでないと、ここのところのプロセスの理解が及ばない点でしょうか。ゲームをやっている人間ならともかく、先に挙げたセカイ系に触れていた人間でなければ、帆高はただの考えなし、行動に説得力がない。登場人物の考えが読めない。となってしまい、「泣けない」「退屈」などという不評を買っているのだと思うのです。
話がずれ気味なので、内容に話を戻します。
映画本編のラストは、セカイ系のキャラクター…要するに主人公とヒロインの中ではハッピーエンドで幕を閉じます。世界はもともと狂っている。世界のつくりを変えたのは2人のせいじゃない。と周りの大人達が言う中で、本人(帆高)は、やっぱり僕らは世界のつくりを変えてしまったとまとめています。
それが自己への戒めなのか、それともキャラクターと世界との認識の差で発せられた言葉なのかは想像がつきませんが、とりあえずトゥルーエンドがめでたしめでたしで終わるのは救いがあって私としてはとても喜ばしい限りです。
そりゃ、視線を広げれば、止まない雨、水没した東京なんて問題山積みですし、そもそもこの状況であれば、メモオフシリーズはすべからくバッドエンド一直線になってしまうことは百も承知なのですが、まぁ、そこまで視線を広げることは必要ないでしょう。これはセカイ系の話なんですから。
ここらへんの意識の差に、オタクか、一般人かの差が見て取れる気がしなくもないです。
そう、つらつら長々と書き連ねてきましたが、天気の子は古いんです。
その古さが、今の社会に、価値観に、エンタメの流行りに合わないこともあるかもしれません。
ですが個人的に、
古き良きボーイ・ミーツ・ガールを現代風に書き直し、
お約束の展開を守った上で、
一人の少女を優先した身勝手な感情と、
引き起こしたことに対して「大丈夫」と言い切れる強さを演出した「天気の子」。
とても、楽しませてもらいました。
- 最後に
皆さんわかってると思いますけど、原作ゲームなんてないですよ。(唐突に冷静になる)
…KIDかアルケミストぐらいが息を吹き返して作ってくれませんかね。
いや、息を吹き返すならminoriがベストですが。
茶番を続けて書き記した天気の子の感想でしたが。
私の1枚…というより、200枚ぐらい上手のブログがありますので、ぜひそちらもご覧ください。
…須賀にビールを奢る選択肢が2周目以降の選択肢だったなんて…!!!