月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

「未来ラジオと人工鳩」をダイレクト・マーケティングするお話

<<<ネタバレ注意>>>
本日の戯言は、あるゲーム作品のネタバレを「若干」含んでいます。
プレイする上で楽しみを奪うレベルではなく、プレイしてみようかなと思っていただけるレベルでお話しているつもりですが、受け取り方に個人差はありますので、「ネタバレ is DIE」という過激派の方は本日のお話をスルーいただければ幸いです。

 


現代SFというジャンルがありまして。


自分の性格形成上、多大なる影響を及ぼし、度々ネタにもしている「イリヤの空、UFOの夏」を始めとして、ジェイムズ・ホーガンの「創造主の掟」、国内作家で言えば宮部みゆきの「龍は眠る」まで、現代~近未来を舞台として描かれるSF(ジャンル的にはミステリに分類されるものもある)が好きなのです。

ここでバルーンタウンの殺人を読んで、想像力豊であったがために嗜好が歪んでしまったYくんの話に言及してもそれはそれで面白いと思うのですが、本日はもうちょっと敷居を下げて、ゲームのお話です。

あ、ちなみにどういうふうに嗜好が歪んでしまったのか気になる方は、バルーンタウンの殺人のググってみたらよいかと思います。別に変な意味じゃなく、名作と呼ばれる一冊です。機会があればぜひ。

 

 


■Laplacian 「未来ラジオと人工鳩」

エロゲじゃねぇか。

ええ、ツッコミはごもっともでございます。ごもっともでございますが聞いて下さい。とりあえずそれは置いときましょう(強引)

あらすじとしては、『人工鳩』と呼ばれるネットワークデバイスが世界中の空を飛び、ネットワークインフラがその自立式の鳩により賄われる近未来。メンテナンスも必要なく、増殖機能によって恒久的に無線ネットワークが地上のどこにいても確保される未来で、突如として鳩が「電波を喰い始める」事件が発生。

テレビ、携帯電話を始めとした電波機器は軒並みその機能を消失し、移動手段は飛行機から電車へ退行してしまう。新聞が最も情報伝達速度が早くなってしまった世界で、主人公はアマチュア無線を元にしたFMラジオを組み上げた。

電波が鳩により妨害される世界で、何故かそのラジオの電波は妨害されず、ラジオ放送が始まる。

ラジオ放送が成功し、喜ぶ主人公たちだが、深夜、そのラジオから誰も放送できるはずのない放送が聞こえる。

主人公が聞いたその放送は、今から約三週間後、事故により自分が死亡するという内容。

未来の、ラジオ放送だった。


ほら。面白くなってきたでしょう?

あらすじだけ書くと、伏線ありまくりの設定てんこ盛りに聞こえてしまうのですが、決してそんなことはなく。プレイヤーを置いてきぼりにしない話術(?)がそこにあります。


・SF特有のとっつきにくさを軽減する要素

そもそも、現代SFの最初のハードルというのは、「独特の設定についていけない」というものだと思うのです。

物語の中の登場人物にとっては日常、プレイヤーにとっては非日常。その差異こそがSFの醍醐味であり、ミステリの誘導線の肝になったりするのですが、一方で空気感、一体感というものも見過ごせるものではありません。あまりに突拍子もない設定では、プレイヤーの想像力での補完が限界を迎え、物語が一人歩き、結局この話はどういう話だったのかイマイチ伝わりづらいといった結果になってしまいます。

この作品の上手い点が、この空気感の醸成に、二つの要素をするりと入れている点。

一つは怒涛のごとく繰り出される下ネタの数々。

18禁ゲームである点を最大限活かしたその言葉の数々は、歴代色々なゲームをプレイしてきた自分から見ても、史上最高に「童貞」という言葉を使っているといえばわかりやすいでしょうか。

ですが、この下ネタこそが、とっつきにくい世界観へのアプローチを緩和している要因になっているんだと思うのです。

人間の三大欲求における性欲。それに直結する下ネタという要素。登場二言目からガンガンに下ネタで攻めてくる義妹に、下ネタを恥ずかしがる同級生。下ネタを無表情で流す研究肌の年上の女性。キャラクターを印象づける一因として作用しながらも、「この世界(近未来)は、現実世界の延長線上で、基本的な世界観や倫理観はそれほど変化していない」ということを暗に主張しています。


そしてもう一つが、感情と視点の対比です。

この作品のメインテーマの一つ、人工鳩。人類文明を一気に後退させた害悪として、世間一般ではその存在を嫌悪されています。主人公もまた、ある理由から鳩を嫌っており。ラジオ制作も、鳩に食われ続ける電波網に穴を開けたいという理由からの製作でした。

要するに憎悪。主人公の感情も、またそれに至る出来事も想像しやすい上に、現代でも利用できているテクノロジー更に便利になった上で消失してしまうという、プレイヤーが想像しやすい設定がなされています。

そして、物語のメインヒロインは、人々が嫌悪する鳩を、好きだと言い、希望だと言うわけです。

この時点でプレイヤーは、主人公側の視点で見ていますので、「なんで?」となり。その時点で物語に引き込まれていくという寸法ですよ。

ともかく、見方によっては下ネタのひどいネタゲーとして評価されかねない本作ですが、現代SFを楽しむにはうってつけの作品であると言えるのです。


・物語としての綺麗さと、プレイヤーが求める救い

また、このLaplacianというソフトハウスの特徴でもあるんですが、物語が物語として綺麗という特徴が挙げられます。安易にご都合主義に走らず、メインのルートですら、ためらいなく悲恋にしてしまう。そう言う姿勢があります。

正直、ハッピーエンド原理主義者の自分としては、この時点でノーサンキューと言わんばかりなのですが、このソフトハウスのすごいところは、本編の物語はこれで終わりだけど、ちゃんと救いのあるご都合主義ハッピーエンドをおまけシナリオで描いてくれる点にあります。

これがどれだけプレイヤーの救いになることか。

あるとなしではえらい違いが出ると思います。


・伏線回収の快感

最後に散りばめられた多くの謎、または謎を解くための設定の明かし方が秀逸だという点にも触れておきます。

手法としてはオーソドックスなのですが、謎としての伏線と、謎として機能しない伏線の二種類が存在し、謎としての伏線が解消されるときに、芋づる式に伏線が回収されていく快感、さらに言えば、次の謎がほぐれていく感覚、ああ、今俺はすごく物語を楽しんでいる!!! という楽しさが味わえます。

…本読みの性ですね(自戒)


というわけで長々とご紹介しました「未来ラジオと人工鳩」です。

今年やったゲームの中で暫定上位三位に入る名作ですので、ご興味がある方はぜひプレイいただければと思います。

上では触れませんでしたが、ヒロイン一人ひとりも魅力的です。なんで書かなかったかって? 多分引かれると思ったからだよマイハニー。プレイ済の人は是非語ろうぜ。

 

あ、ちなみに、自分がこの作品を知ったきっかけというのが、同社前作の「ニュートンと林檎の樹」をプレイし、「うわこれおもしれぇ」となったからなんですね。

こっちの作品も、「タイムスリップした先で、アイザックニュートン万有引力を発見する瞬間を妨害してしまう」っていう、もうあらすじだけでご飯二杯はいけるレベルの作品なので、おすすめしておきます。

かしこ。

 

※商品紹介は当然のごとくリンクできませんでした。おのれ。