月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

頼まれたことも頼んだこともない話

一昔前に、「推薦状」というものが流行った。


いやまあ、未だに大学(特に理系の)に行くと、就職に際しての推薦状の話なんかが出てくるものだから、別に流行り廃りのあるものじゃなく、コンテンツとして一地位を確立させているものなのだろう。幸か不幸か、自分には30年余り「えん」もなければ「ゆかり」もない言葉だというだけの話だ。

だがここでいう推薦状というのは、そういった、「学校の先生」や「ゼミの教授」が書いた、形式張った、文字を崩しまくって全くもって読めない朱色の印影が捺してあるような格式張った推薦状ではなく、友人やバイト先の先輩、学校の後輩なんかに書いてもらう、いわゆる、より内面やその人の一面を強く押し出した「推薦状」だ。

これがまぁ猛威を奮った。学校の正式な推薦状をはねのけて、AO入試に必須とすらされていたし、自己啓発や啓蒙系のセミナーなんかに盛んに取り入れられていた。

知人に書かせるという点がミソで、頼む本人も相手に相応の労力をかけさせるわけだし、そりゃ自分のことをよく書いてくれる人に頼みたい。必然的に推薦文に記載される内容は美辞麗句に彩られ、マイナスなことも最終的にはプラスに持っていかれる、優しい争いのない世界が展開されるわけだ。

どこかのお偉いさんが、長所だけを見るゆとり教育の権化と評していたが、まぁそれについては何も言うまい。そういう側面があるのも事実だし、自分の長所を他人から褒められることでモチベーションが上がるのも確かだからだ。

推薦文そのものを仕上げる労力もそれなりのものがあり、みんながやたらめったらそんな話をしちゃったもんだから、色々めんどくさくなって廃れたんだと自分は今でも思っているが、他人から見た自分というのをおっかなびっくり見てみたい。そういう欲求があるのは確かだ。