月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

アドレスの歴史は人生の縮図である可能性について

人はみな、痛いアドレスを持っているものだと思う。


それは、私たちの年代ともなれば、大体が過去のものだろうとは思うが、1つ2つぐらい黒歴史と呼ばれるアドレスを作ったことがあるだろう。

私が「メールアドレス」というものを初めて作ったのは、高校生の頃である。

今でこそ小学生でも持っている携帯電話だが、当時は高校2年~3年ぐらいで持たせてもらうのがスタンダードだったように思う。多分。そりゃ早くに持ってる奴は持っていたが、学校に携帯電話を持ってきてはいけないという校則もあって、私が買ってもらったときも、クラスの半分ぐらいの奴は持っていなかった。

初めて自分の携帯電話を持ったわけだが、それは同時に、「自分のメールアドレスを設定する」ということでもある。

今でこそランダム文字列のメールアドレスだって市民権を得ているが、当時は赤外線すら危ういレベルで、メールは直打ち、番号はワン切りで登録が基本だったため、少しでも意味がある文字列にしないと説明しづらかったことをありありと覚えている。

この「自分の好きな文字列」と言うものが曲者で、高校生の考える文字列なんてたかが知れている。好きなバンドの名前だとか、アニメの名前だとか。ある意味で今のこの個人情報保護時代より、パーソナルデータをインターネット上に公開することはご法度という空気が流れていたため、自分の名前をメールアドレスにガッツリ入れる人は多くなかった。

というわけで、黒歴史を見ていこう。


・「tukitoanatanihanatabawo@~」

明らかに黒い。真っ黒である。漆黒の闇である。

当時電撃文庫で刊行されていた「月と貴方に花束を」というタイトルそのままである。ラノベだ。

大元は「アルジャーノンに花束を」という作品の捩りなのだが、当時高校生であった私はそんなことを知る由もなく。「貴方」って書いて「あなた」って読むのがカッコいい。物語自体も面白いしこれしかないだろ。というとてつもなくひねりも何もない理由で設定した。最初の「つ」が「tsu」じゃなく、「tu」になっているあたりに、頭の悪さがにじみ出ている。

ちなみにこのアドレスの命は短かった。というのも、恐らくアドレスの「前」の所有者に至らぬ点があったらしく、登録して誰にも教えていない状態で迷惑メールがドコドコ来たからである。いちいち迷惑メール登録するのも馬鹿らしくなってソッコーで変えた。


・「faily-tail_0827@~」

先程までではないものの、なかなかに黒い。

ローマ字から進化し、覚えたての英語を使い、記号と文字列を使うことを覚えた段階である。こうやって見ると、人間の進化過程を辿っているようで興味深い。やっている本人は自虐と言いつつも精神にダメージを負っている。

ちなみに言っておくと、有名なマンガの「FAILY TAIL」とは別物である。当時はまだ「RAVE」をガンガンにやっていた。エリー派が幅を利かせる中でカトレア派の私はなかなかに肩身の狭い思いをしていた。…いやその話はまた今度だ。単純に「おとぎ話」というロマンチックさに惹かれただけである。今多分これを読んでいる人にも引かれている。

後ろにくっついている4桁の数字はそのものズバリ誕生日である。

この誕生日が曲者だった。

当時、一体どこからそんな頭にマッシュルームが生えてきそうな噂が出てきたのかと問いただしたいのだが、「メールアドレスに好きな人の誕生日を入れると恋愛が成就する」というデマが蔓延した。

悪質である。

非常に悪質である。

そして何を思ったかそのデマを信じてしまった、それこそマッシュルームどころか頭にベニテングダケでも生えて養分抜き取られてるんじゃないかという存在が私である。

まんまとデマに踊らされてメールアドレスを設定したものだからなかなかな騒ぎになった。

顛末を思い出そうとすると脳になかなかな負荷がかかるので詳しくは割愛するが、これもまた短命で終了した。(当たり前である)


・「meets-again~」

極めつけはギャルゲのBGMタイトルである。

忘れもしない、「First☆Kiss物語2」のかりんシナリオで流れる個別BGMのタイトルである。

当時ですらリメイクで出されたソフトだったので、もはや周囲に分かる人間などいるはずもなく、心置きなく長い間利用していた。我ながらニッチ過ぎるところをついたものだと今でも思う。

もうこの頃になると、段々と迷惑メール対処も携帯電話会社の方で頑張ってくれるようで、どんなアドレスにしたところで迷惑メールに悩まされることは少なくなった。

と言うより、段々と他の連絡手段である、ショートメールやクラウドメールの方が使い勝手が良くなってきて、自然と携帯メールアドレスというものを使わなくなってきていた。

結局この代のアドレスを7年ぐらい使い、その後はランダム文字列に移行したのだ。


このように、携帯メールアドレスというものにはドラマがあり、物語があり、その人間の黒歴史が大体の場合隠れている。

…だから間違っても、不用意に意味深なメールアドレスの「意味」を求めてはいけない。

とんでもないものが出てくる可能性すらあるのだから。