月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

意識の外へ

人は、刺激に対して、慣れる生き物である。


悲しいかな、喉元過ぎれば熱さ忘れる、それは別に加齢によるものではない。人は確かに「閃き」を持っているが、それが記憶として定着し、形にできるのは、ごく一部の才能を持った人間である。

 

先日、こんなことがあった。

出先から戻ってきて、何の気なしに後輩くんのデスクを見ると、デュアルディスプレイになったパソコン画面のうち、サブディスプレイの画面のど真ん中に付箋が無造作に貼られていた。

明らかにディスプレイをコルクボード扱いしているが、ディスプレイの使い方なんて人それぞれだわな、と一人納得してカバンを置いてコートを脱いでパソコンの電源を入れて、

…普通に使っておるな。

視線を外せなかった私の負けなのか、後輩くんはでかでかと付箋を貼られたディスプレイを普通に使っている。明らかに使いにくいだろ。なんでそんなど真ん中に貼ってるんだと。

いわく、「こうすれば絶対に見落とさないじゃないですか。ライフハックですよライフハック

明らかにお前ライフハックって言いたいだけだろうとは思ったが、なるほど、確かにそれだけ目立てば忘れまい。

よくパソコンのディスプレイの縁に付箋をベタベタ貼る人がいるが(例に漏れず私もそういう人の一人だ)、それはしばらくして「景色」になる。要するに意識の外に行く、見慣れてしまうのだ。

そういう意味では、画面の真ん中にあるというのは慣れない。と言うか邪魔だ。作業効率が落ちて仕方がない。そうまでして忘れてはいけない用件とは一体何なのか。

「14:00 見積り書 連絡」

……。おかしい。私が出先で腕時計を見て「うわもうこんな時間だ」と思った時間が書いてある。

時計を見る。15時半。そうだね、世界はそれでも回っている。

ドヤ顔の後輩は、一瞬にして固まり、慌てて内線を取って何処かにかけはじめ、私は一連のやり取りを忘れることにした。

いや、忘れようと思わなくても、忘れるもんだ。人間は。それも、慣れの一つである。