月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

道路に落ちているものはほぼ危険物であるという話

とにかく道には色々なものが落ちている。


ロールプレイングゲームの話ではない。まあ、あのシステムにも色々突っ込みたいところはある。道に「落ちて」いる薬草や毒消し草は、そこに「生えて」いるのではないかとか、それをそのまま使うのかよとか、その他の道具も完全に「落とし物」じゃないかとか。それを不正拾得しているのが実情なんじゃないかとか。ファンタジーに現実を持ち込むのは野暮か。

とにかく、ゲームの世界ではなく、現実世界でもよくよく見れば実に色々なものが落ちているのだ。

その殆どはゴミと言っても差し支えないものではあるが、総じて言えるのは、落ちているものは何かしらの「危険」をはらんでいるということだ。

ゴミなら怪我をする可能性、食品なら毒となる可能性。現代社会において、「公共の場においてある所有権の不明なもの」は、決して安全ではないのだ。

私も、道端に落ちている様々なものに出会ってきたが、先日後輩がとんでもないものに遭遇したらしい。

「ブラが落ちてて、拾って警察に届けていたので、約束の時間に遅刻しました」

客先訪問の待ち合わせに遅れてきた彼に、途方もなく壮大な言い訳をかまされた。いや、言い訳というか事実なのだろうが、あまりの事態に、遅刻を責める気すら失せた。ブラ? ブラってブラジャーのブラ?

その時は急いでいたし、もういいやとにかく仕事しなければ、という思いでスルーしていたのだが、時間が経つにつれて気になってくる。一体どういう状況で、どういう思考回路でそんな行動に出たのか。

「普通に道に落ちてたんですよ。ブラ。多分Dくらいの」
「いや、それはまぁ…何となく分かるんだけど、なんでまた警察に」
「止まっちゃったんですよね」
「え?」
「自分も『え? なんでこんなとこにブラ?』みたいに思っちゃって、見つけてからしばらく固まっちゃったんですよ。そしたら周りの人に気づかれちゃって、焦って拾っちゃったんですよ」
「完全に不審者じゃん…」
「そんなこと言ったって、そういう状況になったら先輩だってそうなりますよ」

想像してみる。

道端に落ちているブラ。確かにぽん、と置いてあればなんだろう? と思うだろう。近づいてみて、それがブラだと判明した時にどういう行動に出るか。固まるか? いや、見て見ぬふりをするか。とりあえず周りを確認するだろう。いやいや待て、そもそも判別する段階ではどうだ? なかなかに深いはずの内側が見えているのか、それとも外側に施された細かい装飾が目につくのか。そこが第一の問題である。

「…見える向きによるな」
「もうわけがわからないです」
「でも、多分見て見ぬふりをすると思うぞ」
「えー…カップで判断してません? っていうか、先輩はそうか。ブラ必要ない年れ」

黙れと言わんばかりに蹴りを入れる。誤解を生むような発言をするな。会社で。

「で、結局警察に行って大丈夫だったのか」
「大丈夫も何も落とし物届けただけですもん。拾得物の届け出もしましたよ」
「…となると」
「?」
「3ヶ月経ったら、お前のものになるのか?」
「……どうでしょう……。落とし主が現れなければ、そうなんじゃないですかね…」
「いや、例えば洗濯物が飛んだとして、『ブラ落としたんですけど』って、女性が警察署に行くか?」
「行かないと思います」
「そもそも、『干してた下着が盗まれました』ってなる可能性のほうが高くないか?」
「言われてみれば、そんな気も、します」
「……」
「…あの、身元引受人よろしくお願いします」
「おう…」

触らぬ神に祟りなし。善意が身に危険を及ぼす例を、目の当たりにした瞬間だった。