月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

小学生の面子の話

小学生はなぜ頑なに短パンに固執するのか。


気候も涼しくなり始め、そろそろ部屋着をロンTに変えようかというこの季節、ああそろそろ透けなくなってくるんだなぁと季節の移り変わりを惜しんでいた矢先、元気に登校する小学生集団を見かけた。

朝は随分と肌寒いのに、半袖短パンで走り回るその姿に、少し懐かしさを覚えた。

かくいう私も俗にいう「短パン信者」「半袖信者」のうちの一人だったのだが、まぁ何かにつけて小学生というのは自分ルールを持っているものである。横断歩道は白色のところしか渡っちゃいけないとか、給食の冷凍みかんは一口で食べないといけないとか。出来たからなんだという話ではあるが、出来なければ友人に馬鹿にされ、何より悔しくなったものだ。

中でも「どれだけ寒かろうと雪の中であろうと短パンを履き続ける」というチャレンジは小学校高学年の中では暗黙の了解があって、たとえ風邪を引こうが頑なに短パンを履き続けるのがルールだった。

もちろん、そんな生産性も何もないバカなルールに付き合うヤツというのも限られていて、ハナから参加する気なんてない人間は、早々に長ズボンを履いてきていた。だが逆に、気合の入ったバカも居るところには居るもので、私が出会った中で一番おかしかったのは、親に無理やり履かされた長ズボンを登校途中でハサミを使って切り取り、無理やり短パンにしていたヤツもいた。

当時は「やべぇこいつは本物だ…」と恐れおののいていた。びろびろになった切り口が北斗の拳みたいな感じでかっこよかった。本人はひょろひょろだったけど。帰宅後に親にバレてめちゃめちゃ怒られたらしいけど。次の日はおとなしく長ズボン履いてきてたけど。彼の気合は本物だった。

要はそれくらい面子をかけた問題だったわけだ。脱落すれば「あいつは日和った」と言われ、給食の余り物争奪戦や、席替え時の優良席の競り合いに一歩負けてしまうのだ。そりゃ必死にもなる。

そんな話を会社で話していたのだ。

「あーでもあるある。うちの小学校もそうだった。俺はこいつらアホだなって思って見てたけど」
「話聞いてました先輩? 負けたら舐められるんですよ? 精神的優位に立たれてしまうんですよ? 灰色の学生生活なんですよ?」
「それは言いすぎだろ…どう考えても」
「いえ、でも気持ちはわかりますよ。僕もそうでしたもん。ていうか、うちの小学校は女子まで短パンはいてましたし」
「「は?」」
「え…いや、なんか、学級新聞かなんかで風邪を引かないために~みたいな特集があって、その中に普段から寒さに強くなろうみたいな記事があったんですよ。それでなんかみんなでやろうみたいな」
「「……」」

後輩の言葉に固まる先輩二人。

そして、次に発せられた言葉は。


「お前、どこ小出身だっけ?」


先輩が言ったのか、私が言ったのかは、ここでは言及しないこととする。