月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

目は口ほどにはモノを言わない話

アイコンタクト、という意志伝達手段がある。所謂ボディランゲージの1つであるが、目の動きだけでメッセージのやりとりをするという、極めて高度、極めて難解なものだ。

アイコンタクトが用いられる場面というものは、往々にして緊急度が高く、かつ隠密性の高い場合が多い。周りに気取られることなく、当人たち同士でメッセージのやりとりをする。イメージ図は海外のスパイ映画である。スマートに、そしてエレガントに。その所作に、多くの人が憧れることだろう。

だが、現実問題としてアイコンタクトというのは、そこまで複雑なメッセージを伝えることは困難である。初対面の人間にアイコンタクトを取ったところで、「なんかこっちめっちゃ見てくる」ぐらいの感想しか抱かれまい。わずかながらの可能性として熱烈な視線を送り続けることでラブロマンスに発展することが期待できる。が、イケメン以外が実行すればほぼ不審者である。そしてそのどちらもアイコンタクトとしては何ら成功していない。

かくいう私もアイコンタクトを読み間違えることが多く、よく不満を言われる。先日も飲んでいる最中に先輩からタバコと交互に視線を向けられ、タバコを買いに走ったのだが、「俺のタバコじゃない上司のタバコだ」と怒られた。まぁこれは分かる。周りを見ていなかった私のミスである。納得する。

だが、納得出来ない時もある。映画館でフードとドリンクの列に並んでいた私に対して、チケット販売列に並んでいた友人がじっと見てきて、目線があったと確認すると一回だけ頷く。なるほど、了解したと言わんばかりに私は二人分のドリンクとポップコーンを購入。しかもポップコーンは塩とキャラメルで別々の味になるように配慮も怠らない。これがデキる男か…と余韻に浸っていたところに

「なんでポップコーン二つもあるの」

いやだってお前が、と返したら三倍の言葉が返って来た。ドリンクだけでよかったのに、この後飯食うのに、ポップコーンのキャラメル味って認めてないんだよね。なんとも酷い死体蹴りである。というか分かるかそんな主張。別に黙ってなくちゃいけない必然性もないんだから電話すりゃいいじゃないかと声を大にして言いたい。しかも結局食べてるじゃねぇかキャラメル味。

とまあ、アイコンタクトは単純故に事故も多い。正確に伝えるためには、相手への配慮と周囲の状況、様々な要因を勘案してメッセージを送る必要があるのだ。

それを踏まえて、私も受け取る側ではなくて送る側なら才能が発揮されるんじゃないのかと思い、やってみたところ、

「何?」
「…なんでこっち見て百面相してるの?」
「……(視線をそらされる)」

と、ボコボコな評価を頂いたので、もうちゃんと口に出して言うことにします。

にんげんだもの。言語を操るにんげんだもの