月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

飲み代オンリーで限度額に迫る話

「2000円出せ」


ほぼ恫喝である。ほぼというより、まるっきりカツアゲだ。法と倫理が支配するこの現代日本で、このような凶行がまかり通ると思っておるのかこの男は。片腹痛いわ。

結論から言うと通った。何の事はない、飲み代の請求である。盛大に飲みあげた挙句、支払いに置いて帰った金額が足りなかったので追加徴収する。こういった場合は不思議なもので、年功序列で支払の額が多くなる。年取ってりゃ稼いでるだろという暴論のもとに振りかざされる問答無用の剣で、家のローンに苦しむ2児の父を切り捨てる。私はローンもなければ2児の父でもないので平気である。言ってて若干の郷愁が漂う。

誤解していただきたくないのは、私は別に酔っ払って有り金もないのに飲みに行っただとか、精算もせずにさっさと帰った挙句支払を忘れていただとか、そういうことではないのだ。終電のせいで一足先に帰らなければいけなくなって、「それじゃあここにお金置いときますねー」とお金を置いて帰っただけなのだ。3000円。

バーだったのでそれなりに余裕を持って置いて帰ったつもりだったのだが、いかんせん若い人間が多かったらしく、しわ寄せが上に行っているらしい。詳しい割合は不明だが、まぁゴネる程でもないので素直に支払う。世の常社会の常である。

私からスムーズに集金を終えると、集金人は次のターゲットに狙いを定める。私と同期の男だ。確か最後まで付き合って終電を逃し、タクシーで帰ったと言っていたが。私の様子を見ていたのか、財布を取り出して1000円札を2枚、

「お前は8000円な」

そして同期の動きが止まる。

「な、なんでですか! なんでこいつが2000円で俺がその4倍!?」
「お前最後までいた上に金払ってないだろ。高い酒飲んでたし」
「」

そりゃそうなる。後先考えずに飲みあげるからである。

酒というものは高いものは途方も無く高い。そして、バーというものはその高い酒をさらに高くする場所だ。油断してはならない。999円飲み放題のハイボールと、バーで飲むハイボールは同じ名前で違うものだ。大量生産された氷をグラスを詰めて4Lペットボトルに入ったウイスキーを注ぎ、気の抜けた炭酸を注いで箸でかき混ぜたようなハイボールと、削り出しの氷と静かに注がれるウイスキー、一杯ごとに栓を開けられる炭酸水を慎重に注ぎ、炭酸が抜けないようにステアされたハイボールは、存在概念すら違う。

酒の席ではお代の話は無粋なんていう人もいるが、やはりお金を払って飲む以上、その存在は常に付きまとうものだ。

気をつけよう、私は自分の先月のカード代金の請求を思い出しながらそう思うのだった。