月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

カレーの甘さは可能性の塊なのかもしれないという話

最近まで、カレーというものは辛くあるべきものであり、甘いカレーなど言語道断であると思っていた。甘いカレーの存在について興味がなかったのだ。

そも、辛さという定義もよくよく考えれば主観的なものであり、その定義の仕方は人によって異なる。万人に共通する辛さの指標など言葉で示せるわけがないのだ。友人は「痛いと思う4歩ぐらい手前の辛さ」「翌日トイレで神に祈りを捧げる未来が見えるくらい辛い」などとよくわからない辛さのレビューを行うが、私は物を食べて痛いと思ったことはないし、その歩幅もわからない。ついでに言えば、トイレで神に祈りを捧げるという行為が世間一般の常識として存在しているかどうかすら知らない。ちなみに私は知らない。何やったらそんな状況に陥るのか。

結局のところ、カレーの辛さの指標などは、共通のものさしを持ってはかるしか無い。味の強い料理だから辛さのレベルでエビチリを持ってくるわけにもいくまい。それは辛さの種類が異なる。やはり、ココイチのカレーのレベルで伝えるのが一番納得感を得られやすい。

全国チェーンでバリエーションも豊か、辛さのレベルも豊富。これ以上なくわかりやすいものさしだと思ったのだが、ふと、そういえば自分は2辛以上の辛さを食べたことがないことに気がついた。

自慢ではないが、唐辛子由来の辛さが苦手だ。わさびや山椒なんかは問題ないが、唐辛子を食べると味覚が麻痺して発汗量が増大する。それが嫌であまり好んでは食べない。ココイチで2辛を食べた時も後悔した。冬場に体を温めようと思って汗をかきすぎて、風邪を引いたのはそう昔の話じゃない。

だから、私の好みのカレーというのは”汗が出ない程度に辛い”ぐらいが理想という、なかなかわがままなオーダーになっている。

店のカレーは辛い。家で作るとそんなに辛くならない。だからカレーを辛くすることは難しいことで、カレーの価値は辛さが大部分を占める。そう思っていたのだ。

「でも辛くないカレーも美味しいよ」
「それは甘いカレーってこと? 星の王子さま?」
「それは砂糖が塊で入ってるんじゃないかっていうレベルで本気で甘いやつじゃん」
「…わからん。バーモンドカレーとか? 林檎と蜂蜜?」
「んーまぁ甘いっていうか旨味が多いカレーだってあるじゃん」
「…ハッシュドビーフやハヤシライスやビーフシチューやビーフストロガノフと間違っちゃいないか」
「いやそういうんじゃなくて。それくらいの違いはわかるよ」

言わんとする所は何となく分かる。が、実際に食べてみないとどうにも実感が持てない。という話をしたところ、作るかという話に相成った。行動派はフットワークが軽い。

林檎と蜂蜜のあの有名すぎる曲を歌いながらカレーを制作、甘いカレーをご消耗とあらばと、次はちみつ、ヨーグルト、チョコレート、そして引き締めにインスタントコーヒーを少々、と実に甘そうなカレーが出来上がった。

「…甘そうだ」
「いや実はそんな甘くならないんだこれが」

いざ実食と食べてみれば、なんとまああれだけ甘い食材を投入したのに甘くない。もちろん辛くもなく、これが果たしてカレーであるのかと首を傾げたくなるのだが、まずいわけではない。いやむしろ美味しい部類であろう。恐るべきは市販のルーの威力、そしてカレーという料理の懐の深さであろう。闇鍋の救世主は伊達ではない。

さて、そうなってくると、果たして「甘いカレー」の製作方法はどうあるべきなのだろう。人参やじゃがいもなどの含有量が鍵なのか。それともやっぱり怖いもの見たさで砂糖を投入するべきなのだろうか。

気になる。とても気になる。

甘さの方向性さえ間違わなければ、「甘いカレー」というのはアリなんじゃないのか。ベクトルが違うだけで、美味しい料理として成立するんじゃないのか!?

若干興味が出てきた私に、だがしかし無情な言葉が投げられる。


「…まぁでも、ご飯が甘いってのは、私的にはナシかな…」


…ここまで話広げて、その上実際に作っていて、それ言う?