月刊ハコメガネマガジン

好物はカレー。

広島におけるお好み焼きについての話

お好み焼きが好きである。

広島に住んで二十年余りになるが、お好み焼きが嫌いな人はあまり聞いたことがない。ネギが食べられないんだ、という部分的な苦手食材は聞いたことがあるが、お好み焼きという料理そのものが苦手であるという人はかなり珍しいのではないだろうか。

ここで言うお好み焼きとは、言うまでもなく広島風お好み焼きのことであり、全国一般的なお好み焼きとは異なる。

わかってはいる。

お好み焼きの全国区は、関西ひいては粉物文化の聖地大阪で作られるものであり、広島のものはあくまでマイナーであると。でもそれでいいのだと思う。マイナーといえど、普通のお好み焼きより手間もかかるし、高級感があるではないか。そこに行かなければ食べられないというプレミア感もあるではないか。そういう地位で勝負するのもいいではないか。

冒頭にも書いたが、私個人はお好み焼きが好きである。もちろん広島の、だ。だがそれを「広島風お好み焼きって何? お好み焼きはお好み焼きじゃん? これがスタンダードでしょ? え? 意味がわからない」というスタンスに固執してしまうのは、如何なものかと思うのだ。


私の同期の一人に、ソースが居る。

ついに友人の少ない可哀想な子が、無生物を擬人化し始めたかとご心配の諸兄。そういう話ではない。れっきとした人間である。

ソース顔とかそういう話ではなく、単純にソースが好きでお好み焼きが好きなのだ。いや好きというよりも「狂」という方がしっくりくる。彼の中では人類はソースに支配されており、悪意のあるオタフクソースの匂いを嗅ぐと、悪事に走ってしまうから気をつけろと酔うたびに語る。悪意のあるオタフクソースってなんだ。

そんな人間が同期に居るもので、私も週一でお昼ごはんがお好み焼きと相成る。好きだから別に構わないのだが、流石に昼にお好み焼きを食べて、夜お好み焼き屋に飲みに行くというのは如何なものかと思う。店の人には完全に顔を覚えられている。しかも一店舗ではない。「あら~最近見なかったじゃない~」と女主人に言われる。ここはキャバクラか。

だが彼は寛大である。広島風お好み焼きと言っても怒らない。モダン焼きももんじゃ焼きも等しく粉権(粉物の人権みたいなものらしい)がある。スタンスとしては「お好み焼きはお好み焼きだろ」と全てを俯瞰したようなソースの神様みたいなことを言う。それ言ったのはフードコートでたこ焼きを食べている時だったが。「このソースちょっと甘すぎない?」とも言った。ソースにはうるさい。

広島でお好み焼きをユーザーとして愛していると言うと、先に述べたような「広島のお好み焼きが天下を取るべきである」といった、どこぞの戦国武将のようなことを言い出す方が多い中、この懐の深さは特筆すべきではないかと常々思っている。ソースにはうるさいが。

というわけで、今日も彼と一緒に、オタフクソースカープソースとイカリソースの講釈をたれながら、鉄板焼屋でスーツを蒸らし、午後から会う取引先に顔をしかめられる日常を送るのである。